AC長野パルセイロは、12月19日、長野市の長野Uスタジアムで記者会見を行い、来季新監督の就任発表と共に、なでしこ1部に所属するパルセイロ・レディースが掲げる「2020 VISION」についての詳細発表を行った。米国男子サッカー4部リーグ PDL所属のサンディエゴ・ゼストFC運営会社であるSDSA(San Diego Sports Authority)がパートナーとして共同でプロジェクトを実施する。
長野パルセイロの掲げる「2020 VISION」では、東京オリンピック開催年となる2020年へ向けて、パルセイロ・レディースの人材発掘や育成を含む大型プロジェクトを打ち出した。当プロジェクトでは、1.米国大学留学生のセレクションキャンプ開催、2.アメリカ女子サッカー2部リーグチームとの提携、という女子サッカー大国アメリカとの交流事業が軸となっており、米サンディエゴに拠点を置くSDSAとのタッグにより、日米サッカー界初の試みが実施されることとなる。
1.米国大学留学生のセレクションキャンプ開催
当コラムでは既報の通り、来年3月に米国大学へのサッカー留学を目指す中高生を対象とした選考合宿を、今回会見が行われた長野Uスタジアムで開催。
男子サッカーでは2015年から2年連続で福岡での選考会を実施、2016年には参加者100名を超える一大イベントにまで成長した。3月に予定されている女子セレクションキャンプには、12月21日現在、ケンタッキー大学、アイダホ州立大学、オレゴン大学、ハワイ大学マノア校から各コーチ陣の来日が決定している。いずれもNCAA1部に所属する世界トップレベルの大学女子サッカー部とあって、潤沢な奨学金制度を準備しており、実力が認められた選手は留学費用の全額または一部が免除される。過去にSDSAがサポートを行った女子サッカー選手は、2年連続でNCAA1部の大学女子サッカー部から授業料と滞在費を含む留学費用全額免除の奨学金を獲得しており、実績は十分。コーチの一人は、「今年も(日本を)視察で訪れ、日本の女子サッカーのレベルが高いことは十分に理解している。どんな選手に出会えるか今から楽しみ」と語る。
もちろん、本プロジェクトの目的は、優秀な選手への留学機会の創出にとどまらない。アメリカで経験を積んだ選手が将来的には長野パルセイロ・レディースや「なでしこリーグ」へ凱旋し、即戦力として活躍するという道も考えられる。また、日本の女子サッカー選手が海外でのプレーを志向または経験することにより、高校卒業後の進路選択の幅が広がると同時に、日本の女子サッカー全体の底上げに期待がかかる。
2.アメリカ女子サッカー2部リーグチームとの提携
2018年のプロジェクトとしては、米国女子サッカー2部リーグ WPSL(Women’s Premier Soccer League)に史上初の日系資本として参入するSDSAの女子チームと長野パルセイロレディースの提携を発表。日米間での選手の派遣や交流を予定しており、セレクションキャンプでの人材発掘と育成に加え、現有戦力のレベルアップも視野に入れている。
SDSAが新チームを設立するのは、勿論、拠点を置くサンディエゴ。SDSAは2016年に日系資本として北米で初めて、ステータスの高い男子4部リーグ USL PDLでサンディエゴゼストFCを立ち上げた。初年度にしてプレーオフ進出や、ジャイアントキリングを成し遂げるなど、その名を全米、世界に向け大きくアピールした。また、2016年7月には、Jリーグ・アビスパ福岡との提携も発表し、米サッカー界においても目の離せない存在として初年度を終えている。
SDSAは、米国でのクラブ運営の実績を引っさげての2018年度米国女子2部リーグ設立となり、否が応にも期待は高まる。サンディエゴは年中気候が良く、スポーツに最適な環境の中、選手達は世界トップレベルのリーグで経験を積むことになる。多様な人種が行き交うアメリカで国際的な視野を身につけることは、選手のキャリアや引退後の人生にとっても、貴重な経験になることだろう。
こうしたプロジェクトを通して、日米両団体が真の意味でのパートナー(=パルセイロ)となり、両国の女子サッカー界を次のステージへ引き上げていく。現在は世界一に君臨するアメリカ女子サッカー界にとっても、日本女子サッカーのアメリカ進出は脅威であると同時に、大きな刺激となるだろう。
長野とサンディエゴから打ち上げられた壮大なプロジェクトはしかし、やや壮言大語な印象をサッカーファンには与えてしまうかもしれない。しかし、誰かがアクションを起こさなければ、サッカー界全体のステージが次のレベルに進むことは起こり得ない。
変革は長野とサンディエゴから始まる。サッカーを愛する方であれば、この大きな波を見逃さないで頂きたい。