10月25日、今秋に米国大学への現役入学を実現させた山田ひかりさん(以下ひかりさん)が、NCAA1部(全米体育協会1部)でのシーズン初年度を終えた。2018年3月に常葉学園橘高等学校(静岡県)を卒業し、英語漬けの日々を経て、同年8月にケンタッキー大学進学ならびに女子サッカー部への入部を果たしたひかりさん。慣れない環境への適応には時間を要したが、今シーズンはリーグ戦19試合中16試合に出場し、シーズン最終節には記念すべき初ゴールを記録するなど、1年目からその存在感を発揮した。今回は、そんなひかりさんにケンタッキー大学での初シーズンを振り返っていただいた。
まずはケンタッキー大学での初シーズンを終えての総括をお願いします
初シーズンは本当にあっという間に終わりました。私自身、米国大学サッカーのシステムに対する知識が乏しかったため、様々なことを学んでいるうちにシーズンが終わってしまった感じでした。シーズン開幕当初は、アメリカと日本のサッカー観の違いに慣れるのに苦労しました。今まで自分が当たり前だと思っていたことが当たり前ではない(その逆も然り)という環境に、度々驚かされました。ただその度に多くのことを学べている気がして、その都度充実感を覚えることができました。しかし、指導者やチームメートに自分のプレースタイルを認めてもらうのには時間がかかりました。とにかく日々の練習に人一倍集中して取り組むこと、周囲とのコミュニケーションに費やす時間を増やし、自分の意思を周りに共有すること。まずはこういった基本的な部分から見直し、自分のことを周りに理解してもらえるよう努めました。とは言っても、シーズン序盤の数試合に関しては、出場機会こそ与えられていたものの自分のプレーに納得できず、落ち込んでいたのを覚えています。ただシーズンも終盤になるにつれ出場機会は徐々に増え、スターティングメンバーとして試合にフル出場する機会を与えてもらえるようにもなりました。シーズン最終戦では初ゴールを記録することができ、それがチームの勝利に繋がったことは私自身とても嬉しかったです。ただ本音を言うと、より結果を残したかったです。今年のチームは怪我人の多さに悩まされたこともあり、肝心の結果を残せずに終わってしまいました。アメリカは日本とは違い、中1日~2日のタイトな試合スケジュールが組まれるため、一人一人の試合に向けた準備(オフの過ごし方や体調管理など)がとても大切になると感じました。現在、チームはシーズンオフを迎えていますが、来シーズンに向けての準備は既に始まっています。多少のメンバーの入れ替えは出てくると思いますが、全員が今シーズンのそれぞれの出来を反省し、成長していくことが次に繋がるものと思っています。
練習時や試合時、遠征時でのチームの雰囲気は如何でしたか
練習時間は毎回2時間30分から3時間ほどです。ケンタッキー大学の女子サッカー部では、集中するときと楽しむときのメリハリがはっきりしています。そんなチームのスタイルに、練習が苦だと感じたことは一度もありませんでした。私達のコーチは一つのミスも見逃さない方々なので、選手は常に質の高いプレーを求められ、練習にはいつも緊張感が漂っていました。
試合前のルーティンとして、ロッカールームにて音楽を大音量で聴くというのがあります。アメリカ人はノリノリの音楽を聴いて集中力を高めるようです。試合中はコーチや選手とのコミュニケーションを大切にしています。ただそれが時には言い争いに発展することもあります。こちらでは、控えの選手達が試合に出場している選手達に対して罵声を浴びさせることが多々あり、それには驚かされました。試合を勝利で終えたあとのロッカールームは異常なまでの盛り上がりを見せますが、敗戦後はしんみりとした空気で包まれます。
収容人数3368人を誇るケンタッキー大学のサッカースタジアムには、毎回多くのファンが足を運んでくださります。そのため、そんな方々への謝意を表することを目的に、試合後にサイン会を実施したり、“Fun Day”というファン感謝祭を実施したりすることもあります。
アウェー試合のときは、試合前日に大型バスやチャーター機にて試合会場近郊まで移動します。怪我人は帯同できません。広大な面積を誇るアメリカでは、長時間のバス移動を当たり前に行います。アーカンソー大学とのアウェー試合の際は、バスで9時間かけて移動しました。移動日の食事は、監督やコーチを含めチーム全体で取ります。移動で疲れ切った身体をケアするためか、移動日の夕食はステーキを頂くことが多いです。チーム全体で食事ができるこの時間はとても盛り上がります。移動で疲れた身体を癒し万全な状態で試合に臨めるよう、アウェーのときは毎回綺麗なホテルに宿泊します。ホテルの部屋は基本的に2人1部屋となります。常に優しく、笑顔にさせてくれるこのチームが、私は大好きです。
アメリカでプレーしてみて感じた日米のサッカーの違いについて教えて下さい
日本人選手の優れている点として、足元の技術の高さと戦術理解があります。日本人選手はトラップやパスといった基本的な技術が正確ですし、常によく考えながらプレーをしていると思います。一方でアメリカ人は、スピードと強さを兼ね備えており、フィジカル面では私自身も悩まされました。彼らは感覚的にプレーをしているような気がします。アメリカ人のプレーで私が最も驚いた点に、シュートの質の高さがあります。今シーズンを振り返ってみても、ロングシュートを決めている選手が多かったように思います。この点も日本人選手との違いだと感じました。
ひかりさん個人としてアメリカで通用した点と改善が必要だと感じた点を教えて下さい
私が個人的に通用したと感じた点は、テクニックや視野の広さ、戦術の理解などです。アメリカ人はスピードが速く体も強いため、フィジカルコンタクトをうまく避け、判断力を早めることが求められました。私はコーチから、ワンタッチやツータッチでプレーするよう指示を受けていたため、素早い判断とそのための状況把握という点を常に意識しながらプレーをしていました。ポジションはボランチやトップ下をやらせてもらうことが多かったため、日本で身につけた知識や戦術を活かすことが出来ました。
改善すべき点としては、ヘディングの競り合いやディフェンス能力だと感じています。もともとヘディングは得意な方ではなく、また身長はアメリカ人と比べるととても小さい方なので、競り合いは大の苦手です。ディフェンス面ではスピードについていけない場面が多々ありました。これらのことから、ポジショニングや相手との駆け引きなどは改善していく必要があると感じました。
チームメートやコーチ陣とのコミュニケーションは上手く図れていましたか
言語の壁にはとても苦労しました。自分が思っていることをうまく伝えることができなかったり、あとになってこういう言い方をすべきだったと後悔したり、自分の語学力の未熟さを悔やむこともありました。ただサッカーをしていると、相手の考えが理解できたり、自分の伝えたいことを表現したりすることが出来ました。英語をより理解し話せることに越したことはありませんが、サッカーをすることで皆とコミュニケーションがとれた気がします。月日が経つにつれてチームメートとの会話も増え、それによって毎日がさらに楽しくなりました。コーチと話すのはあまり得意ではありませんが、コーチから積極的に話しかけて下さったおかげで、自然と会話も増えました。監督やコーチは選手の意見をしっかりと聞いてくれるため、私自身とても信頼を置いてます。シーズン終了後に実施したコーチ陣との個別面談では、今シーズンの反省やシーズンを通して自分が感じた点に関して、コーチと直接話し合うことができました。この面談を通して、もっと彼らについていきたい、彼らを優勝へと導いてあげたいと思うようになりました。余談ですが、私はチームの中で最も身長が低いということもあり、皆からは“Wee Man”(ちび)というあだ名で呼ばれています。試合中もこのあだ名で呼ばれていますが、未だに慣れることができません(笑)。
今シーズン最も苦労したことと最も嬉しかったことを教えて下さい
最も苦労したことは、自分のサッカースタイルを周囲に認めてもらうことです。日本とは全く異なるアメリカのサッカーを理解することは、14年間日本でサッカーをやってきた私にとってとても大変なことでした。また、それに付随して言語の壁もあったため、最初はとても苦労しました。ただ、日本で経験できなかったことを今経験させてもらっていると思うと、この辛い状況も楽しむことができました。基本から見直し、何故アメリカに来たのかを考えたとき、今やらなければいけないことが見えてきました。時間はかかりましたが、最終的には周囲からの信頼を勝ち取ることができました。
最も嬉しかったことは、シーズン後のコーチ陣との面談にてお褒めの言葉を頂いたことです。私は褒められると嬉しくなってしまうタイプですので(笑)。この面談では今シーズンの課題を指摘されるものだと思っていましたので、コーチからポジティブなお言葉を頂けたときは、本当に嬉しかったです。
後編へ続く